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鳥取地方裁判所 昭和42年(行ク)4号 決定 1967年7月04日

申立人 梅林俊作 外一名

被申立人 鳥取県教育委員会

主文

申立人らの本件各申立をいずれも棄却する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

申立人両名代理人は「被申立人が申立人梅林に対してなした昭和四二年四月一日付鳥取県立境水産高等学校への配置換命令、及び申立人高木に対してなした右同日付鳥取県立境高等学校への配置換命令の各執行を停止する。」との決定を求め、その理由として主張する要旨は別紙のとおりである。

(疎明省略)

そこで本件各執行停止の理由の有無につき考えるに、

一、申立人梅林について

疎甲第四号証(同申立人の供述書)中には、本件配置転換の結果、同人が通勤のために往復八時間を要するとの記載もあるがこれはにわかに信用しえない。むしろ疎乙第四、第五号証の一、二、第八、第一一号証によれば、本件配置転換の結果、同人が通勤に要する往復所要時間は一日につき約五時間になると一応認めることができる。これからすると右通勤が右申立人にとつて、不可能であるかどうかは別としても決して容易なものではないことは充分に推測できるけれども、一方右申立人が公務員たる地位にある以上、その職責遂行上、場合によつては右申立人において自宅通勤に限ることなく、それがもし、不都合を伴うなら下宿等による通勤の方法等を考慮する必要があると考えられることは多言を要しない。もつとも右通勤(疎甲第四、第五号証によればこの場合一ケ月一、五〇〇円乃至二、〇〇〇円の支出増になることが一応認められる)または下宿をすることによりそれに相応する出費を伴い、私生活においてもある程度の不便を来たすことがありうることは当然予想されるが、かかる事情をもつて、同人に対する本件配置換命令の執行を緊急に停止しなければ右申立人にとつて回復の困難な損害を避け難い場合に当るとみることはできない。また右申立人の健康状態も疎乙第六、七号証によればすでに通常の健康状態に回復しているものと一応認められ、右申立人が下宿することによつては勿論のこと、右通勤によつても著しくその健康状態を悪化させるとも認められない。

二、申立人高木について

疎甲第一三号証(同申立人の供述書)中には、本件配置換の結果、同人が通勤のために往復約五時間四〇分を要するとの記載があるが、これはにわかに信用しえない。むしろ疎乙第四、第五号証の一によれば、本件配置転換の結果、同人がその通勤に要する往復所要時間は一日につき約三時間二〇分となるものと一応認められ(もつとも、交通機関として一部バスを利用した部合、交通費の負担増となることも推測されないではない)、右申立人の健康状態については、疎甲第一五号証、疎乙第七、第一三乃至第一五号証によれば昭和四〇年、四一年度の各定期健康診断の結果において右申立人は定期的に医師の観察を受ける必要があるけれども、医師による医療行為はすでに必要なく、勤務をほぼ平常に行なつてよいが、過激な運動や仕事はしてはならない程度の健康状態(C2)と判定されていること、また右申立人は本件配置転換後の昭和四二年四月一八日十二指腸潰瘍等による胃切除手術を行なつたが、その後の経過は良く、同年六月三日退院し、自宅療養を行なつており、同年六月下旬頃には教育職務に復帰可能見込みであること、一方、赴任校においては右の手術の事情を考慮し、右申立人のため常勤の代替講師を配置する等右申立人が健康回復に専念しうるよう配慮している事情が一応認められる。なお右申立人が公務員たる地位にある以上、その職責遂行上、場合によつては右申立人において下宿等による通勤方法等を考慮する必要があると考えられることの多言を要しないこと等は前記申立人梅林について述べたところと同様であり、かかる事情を綜合勘案すると、右高木においても同人に対する本件配置換命令の執行を緊急に停止しなければ右申立人にとつて回復の困難な損害を避け難い場合に当るとみることはできない。

以上の次第で、本件各申立は右の点においてすでに理由がないから棄却すべきであり、申立費用につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 中村捷三 海老塚和衛 相瑞一雄)

(別紙)

申立の理由要旨

一(1) 申立人梅林俊作において、

住所地日野郡下黒坂より境水産高校に通勤する往復に八時間を要し、教員たる本務を完することが不可能であり、自己の健康保持上からして其通勤は堪え得られないところであるばかりでなく、妻の健康も破壊されるに至ることが明らかであり、且つ通勤のため一ケ月金千円の余分の費用が嵩み経済上の不利益を蒙る配置換であり、該転勤命令は、同人が高校教職員組合の組合員として、過去において活溌なる組合活動をしたことの故を以てした被申立人の悪意ある不公正処分であつて取消さるべきである。

(2) 申立人高木武津夫において、

住所地島根県安来市より境高校に通勤する往復所用時間は五時間四十一分で、研修、準備をなすことが不可能の状態であり、且つ、過去において肺結核症のため三年間休職した病歴があり、又数年来十二指腸潰瘍に罹り、本年四月十八日手術入院中であつて、私経済も窮状に在るに拘らず、被申立人は合理的理由なくして極端な不利益を与える配置換を行つたもので、其命令は違法であるから取消されなければならない。

二、右両名共、上記条件の苛酷な通勤により、健康を損い、労働不可能に陥る急迫状態が存在し、特に申立人高木は生命の危険にすら繋がつており、ひいては家族の生活も脅かされ、申立人両名が教員としての権利が侵害されておるばかりでなく、申立人両名がこのような苛酷な条件の下に教壇に立つては、到底教員の本分を尽し得ないため、生徒の教育を受ける権利が侵害され、生徒に対し回復し難い損害を与えることになる。

斯る被申立人の配置換命付は、教育基本法六条二項、地方公務員法十三条等の法令に違背する処分で、其執行を停止する緊急の必要がある。

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